ルックバック-感想

| July 12, 2024

忙しい大学の通常講義期間を終えて, 少しの休憩とばかりルックバックを見てきた.
感想を書かずにはいられない.
ド肝を抜かれた 休憩どころか興奮して今も夜になってこれを書いている.

クリエイターはなんのために作品を作るのか.
その理由の一つを至る過程からまざまざと見せつけられた.

正直, 自分がこれから書いていく解釈は筆者が書きたかったこととはかなり異なるかも知れない. だが、感想は筆者の意図当てゲームでもなければ正しいも間違いもないので, 思ったことを書き残していこうと思う. かなり雑になるが, 雑記だと思って描いていく.

以下から, ネタバレになる.

もがいても追いつけない才能

メタ的に初めに気になったのは背景がとんでもなくリアル寄りなことである.
キャラクタは強烈なほど漫画調であるにも関わらず.
後で気づいたが, Look Back(後ろを見て)という洒落たネタなのだろう. もっとも, クリエイターにとってはシャレではなく, マジであるのだろう. リバースピアノ(逆再生のピアノ)から物語は始まる.

周りからもてはやされる藤野.
小学生で運動も得意で, 絵も上手い. 才能の塊だ.
漫画は懸命になって書くが, それを周りには隠す. 自分が天才であるように見せる.
彼女の強がりで, 見栄っ張りな性格がこの時点で描かれている.
絵に関しては, 同年代で自分を越える絵を見たことがなく, 自信があったのだろう.
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しかし, 京野の絵を見ることでこの藤野の自信は打ち砕かれる.

クラスメイトの言葉が嘲笑しているように聞こえ, 自分が「普通」であるかも知れないことを実感する.
彼女は根は真面目な性格である.
そこから2年の猛特訓が始まる.
2年間一心不乱に何かに打ち込むということは私には経験がなく, おそらくこれが彼女の 才能なのだろうと思う.
友人, 家族からは無意識的な社会への帰属要請が日を増すごとに発される.
そして, 6年生のある日ぷつっと才能の差が埋まらないことを悟り, その要請に, 甘い世界に屈する.
そうして, 最後は友達や家族と楽しい時間を過ごし, 小学校を卒業していく.

単純には割り切れない人間の本性

腹黒くまともに見える現実の主人公と純粋で奇人に見える理想の準主人公

卒業式の日, 卒業証書を渡しに京本の家に行く藤野.
京本のスケッチブックの量が段違いに違う. 彼女もまた絵に打ち込んでいたのだ.
空白の4コマを見つけ, 漫画を描く.
周りの目を気にして書かなくなったが, 藤野は諦めきれていないのだろう. 普通, 初対面の人の家に来て4コマ漫画など書かない.
そして, 邂逅.
尊敬していた人間に「ファンです」とサインを求められる.
基本彼女はカッコつけたがりなので, 無愛想に対応する.
嬉しかっただろう. 少しは悔しかっただろう.
帰り際彼女のスキップ描写から読み取れる.
雨にぬかるんだ道での重いスキップ. 単純に割り切れる心情ではないのだろう.

漫画を辞めた理由を語る際, 漫画を寄稿するからと答えた. これはある種思いつきだろうし, 京本によって自信と希望を見出した彼女の本音, 夢だっただろう.
また, 彼女はこの頃から「京本を利用する」ことを内心少しは考えていたのではないだろうかと思う.
自分なら彼女の協力を得られるし, それによって作品の質も上がる.
きっと彼女も喜ぶ.
そんな腹黒さが見え透ける.

京本はこの物語で一貫して裏がない.
本心で生きるというのは, 誰しもが思う理想であろう.
周りの人間はそうではない.
自分が得をするために時に欺き, 陥れてくるだろう.
彼女は人が怖くて引きこもりになってしまった.
理想を描けば, どんどん一般的通念における奇人になってしまうのだ.

その別れは一瞬か永遠か, ポジティブかネガティブか

彼女たちは漫画を描く.
そして, 藤野キョウの漫画は入選.
二人は100万円を手にいれる.
中学生の彼女らにとって大金であることは, 街で1日中遊んでもなお5000円しか使えなかったことから明白だ.
帰りの電車で, 京本は藤野に感謝を伝える.
その返しに藤野は感謝料10万という.

もともと藤野の漫画のモチベーションはそのものが好きというのもあったが周りからの歓声だった.
趣味で一人で描いていた京本にとってのそれは, 純粋な好意であっただろう.
この点, 二人は異なっていた.
先ほどの10万の描写によりその違いがより明確になったように思う.

その後も二人は漫画を描く.
その期間実に6年.
京本は相変わらず引きこもりであり, 藤野も学校では常に漫画を描いていることから, お互いがお互いに唯一の友達であったことは間違いない.
6年も毎日長時間会っていたら, もはや自分の半分と言っても過言ではないだろう.
確かに, 友情を超えるものは二人の間にあったと思う.

しかし, 漫画へのモチベーションと同様な気持ちがお互いへの感情として同時にあったこともまた事実だと思う.
藤野は周りがいいと思う漫画を描くために京本を利用しており, 京本は純粋に藤野と描きたいから共にいる.
他にも, 藤野が京本の手を引いてるシーン.
京本の視点は主観なのだが, 藤野の視点は客観なのである.
またそういったズレは, 進路の分岐の掛け合いでも顕著に表れている.

京本は芸大に入りたいという.
藤野は現実を語り, また京本自身をも否定する.
かつて, 自分がされたように.
私についてくれば全部うまくいく.
ここでも彼女は自分を大きく見せるがそれは, “あなたが"という意味でもあるだろうが, “私が"という意味もあったのではないだろうか.
彼女の描く背景を信頼していたからこそであるし, 彼女自身が自身の画力への不安から漏れた言葉でもあったように思う.
京本は絵が上手くなりたいと言っていた.
が, 京本は自分自身がある種の醜さを持った人間だからこそ, “自分のことが嫌いになったのでは"といった不安もあったと思う.

後ろを見て, 前を見る

藤野は漫画家に, 京本は大学にそれぞれ進むが, 京本が無差別殺人によって殺される.
なぜ, 京アニに酷似した状況を選んだのかについてはまた機会があれば考えてみたいと思う.(ただし, 意図当てはしたくない).
地元に戻り, 葬儀(通夜?)に出て, 彼女の家に行く藤野.
そこで, 京本が自分の漫画を買って, 読んでいたことを知る.
栞として挟まれていたのは, 卒業証書を渡す際の4コマだった.
藤野の理想が描かれ(犯人は構内で凶器を拾っているが, ランニングをしている藤野は凶器を持った犯人が構内に入るのを見たと言っていた. この矛盾はif世界でなく, 落ち込み思考力のない中の藤野の理想と言って差し支えないだろう.), 藤野は京本が大学に行った理由を自分と共により絵を描くためだと信じていたことが明かされる.
そして, それは確信へと変わる.
彼女は人気投票へのはがきを熱心に描いていたのだ.

京本が小学生のときに描いたであろう4コマ「後ろ(背中だったかも)を見て」.
背景画に比べて, 人物の描き方もストーリーも上手いとは言えない.
そもそも, 京本は4コマに物語を載せていなかった.
やはり小学生の時から, 藤野も京本もお互いの背中を追っていたのだ.
それを知った藤野は再び漫画を描き始める.
それは, 一番のファンであった彼女に応えるためであるし, 追いつくためなのだろう.
アシスタントを効率のために変えようとしていた彼女が, 熱意, 純粋さを京本から受け取ったのだ.

漫画家を題材にし, 藤野と京本という自分を分けたかのようなキャラクタを書くなど, とことん自分と近い属性で書いた藤本先生はは何のため, 誰のために漫画を描いているだろうか.

自分は音楽的才能には恵まれなかったと思っている. 忙殺され, 周りの実力に何のために音楽を作っているのかを時々見失う.
今日はそんな自分を見つめ直すいい機会になったと思う.
自分は自分のために, 自分のような人のために音楽を作りたいと思う.

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